『幻想の城』② 法華経化城喩品/過去の因縁、量子のもつれ

存在の正しい法則

 

 

A long time ago in a galaxy far, far away….
STAR WARS SAGA

 

『幻想の城』①よりつづく)
また、「互いに見合い、互いに知り合う」という表現に、地球外生命体とのファースト・コンタクト時の光景を重ね合わせることができるかもしれない。この場合、読者の視点は3~5次元ぐらいの位置にあるだろう。ここよりさらに数段ほど高次のレイヤーに上がれば、序品、見宝塔品、妙音菩薩品などに描かれているような、如来が説き明かす無限の並行宇宙が融通無碍に繋がり合った世界の全貌を目にすることができる。

さて、化城喩品にはまだまだいろいろな謎の表現が残されている。以下、いささか見苦しい推論――というよりもこじつけ――を羅列していく。ただの戯言なので、読者におかれてはどうか、おひまなときに。

(本ブログでは種々の聖典について言及するが、それらはいっさいの教義に対する解釈ではなく、叙事詩や物語としての吟味であるということを申し添えておきたい)

 

南部陽一郎博士「たくさんの人がいる体育館」のたとえ

たとえばブラフマー神たちの次のような行動には、いかなるわけがあるのだろうか。

ところで、東の方角のかの五百万・コーティ・ナユタもの世界にあるブラフマー神の天の乗り物は、ひときわ強く光り、輝き、きらめいて、燦然たる光輝と光明を放っていた。(『法華経』化城喩品。中公文庫より)

この強い光は前編でも考察した大通智勝如来の「巨大な光明」と同じものと思われる。問題は、「東の方角」で光り輝いたら、ブラフマー神たちが正反対の「西の方角」に向かっていくことだ。みんなで寄り集まって相談したり、四方をへめぐったりして、最終的に「西の方角」へ向かうという合議に至ったのは、どんな因縁によるのであろう。このようなことが起こったのは、いったい、何ゆえであろうか。

東の方角で輝きが現れると、五百万・コーティ・ナユタのブラフマー神たちが大挙して西の方角に向かう。するとそこにはこの上ない正しいさとりを開いた大通智勝如来がいて、十六人の王子たちやその他もろもろの各種生命体に囲まれて教えを乞われている。その様子を見たブラフマー神たちは詩頌によって如来を讃え、梵天勧請を行う……この同じ様子が各方角で、大蛇の交響曲のようにえんえんと繰り返される。東南の方角に輝きがあれば正反対の西北に向かい、南で輝いたら同じように北に向かい、行った先にそれぞれ正しい菩提を得た大通智勝如来の輝く姿を見いだす……

以下同様に、南西で光れば北東に、西で光れば東に、あるいはまた下で光れば上に、ブラフマー神の大群が真逆の方角に向かって一斉に飛んでいく。いったいこの運動法則はなんなのか?何がこのことの理由なのだろうか?

これらの事象についてはもはやカンに頼るしかないが、ひとつは、光と反対方向にみんなが一斉に動き出す様子は、自発的対称性の破れを説明するときに用いられる南部陽一郎博士「たくさんの人がいる広い体育館」のたとえをなんとなく想起させる。南部博士はこの「体育館」のたとえをよく使ったのだという。南部博士のたとえ話については下記リンクを参照されたい。
【到達】「ヒッグス粒子の発見」はなぜ大ニュースなのか?素粒子物理学の「標準模型」を易しく説明する:『強い力と弱い力』  (大栗博司)2021-10-18 2022-02-11

また、光が生じた場所と真逆の方角に如来が現れるという法則性は、それこそ、世界が一種の対称性を持っていることを暗示しているように思えなくもない。

「並行宇宙」「完全な対称性の世界」を描出?

次に、「ひときわ強い光が生じるとき、反対側の方角で大通智勝如来が正しい菩提を悟っている」という要素命題が、十方のそれぞれの世界において生起している様子について。これはパラレルワールド、並行宇宙の隠喩ではないか。あらゆる方位でほぼほぼ同じ出来事が発生しているというのは、さまざまな並行宇宙で、同じ出来事が、少しだけ違いながら起きていることのたとえだ、というふうに解釈できるかもしれない。

方角によってブラフマー・リーダーの名前や、詩の歌詞が変わったりしているのは、一見同じに見えるけど微妙に違うという並行宇宙あるあるを示す(如来の名前は変わらないというのがちょっとポイントかもしれない?)。十方の方角の最後の、上で光って下に向かうパターンで詩頌がやたらとゴージャスになっているのは、最後のシメの方角だからだろう。仏教信徒が愛唱する「廻向文」もここに入っていて、舞台のテンションはいやがうえにも盛り上がる。

願わくは此の功徳を以てあまねく一切に及ぼし
我等と衆生と皆、共に仏道を成ぜんことを
願以此功徳 普及於一切
我等与衆生 皆共成仏道
(「みんなの仏教WEB大学校」からお借りしました)

この廻向文といい如来寿量品の自我偈といい、漢訳書き下し文の日本語が持つパワーにはなかなかのものがある。法華経が人々に愛され、支持されるために、正しい教えを最末法の世まで末永く維持するために、このような人好きのする演出がなされたのだと思う。現代で言えば一種のSEO対策のようなものか。衆生の目を引き、心をつかんでリピートを獲得するうえで、すぐれた効果を発現する詩頌ではないだろうか。

この最後の方角「上で光って下へ向かう」で廻向文からの梵天勧請がビシッと決まった瞬間、「光が生じる⇒大通智勝如来が正しい菩提を悟っている」という同一パターンがすべての方位で成就したのである。これで、どこから見ても一様な、完全な対称性の世界が完成した……

というふうに――もはや完全なこじつけの世界と言うほかないが――一連の不思議な描写の意味を直観だけで類推してみた。使用アイテムは「自発的対称性の破れ」、「並行宇宙」、「廻向文」、「完全な対称性の世界」だ。

遠い、遠い昔の、どこかの量子エンタングルメント

 

かの尊き如来は順次に第二・第三・第四の教えを説いた。(『法華経』化城喩品、岩波文庫より)

この対称性の世界が完成するや、今まで無言だったかの尊き大通智勝如来は堰を切ったように鋭い教えの雨を降らし始める。尊き如来が第二、第三、第四と教えを説くたびに、例によってコーティ・ナユタ単位で次々に衆生たちが解脱していく。ここで説かれる「無知(無明)」から始まって「まじりけのない苦のみの大きな塊」に至り、無知の寂滅から苦のかたまりの寂滅に結する「十二因縁」説法のシークエンスには因果連鎖の律動感があり、読んでいてけっこうおもしろい。

次の謎解きに進もう。16人の王子たちが如来になり、2人1組で8つの方角に配置される曼荼羅っぽい図式の意味だ。

まず「16」という数字について。大通智勝如来が説いた四聖諦の「4」と十二因縁の「12」を足すといちおう16にはなる。また、十界と六根で16だという説も見られる。だがここではせっかくなので現代科学のほうに寄せてこの「16」をこじつけてみたい。

8とか16といった数は昔のコンピュータのビットなどの数でよく出てくるので、二進法「00 01 10 11 ……」の、ゼロ-イチ、イチ-ゼロの世界を思い出させる。陰陽の二元の世界観だ。如来が「2人1組」というのも、陰陽の組み合わせを暗示しているとも取れる。そして二元で表される世界を現代科学に寄せて言えば、量子エンタングルメントという量子論のテーマが当てはまるかもしれない(Ricoさん「Maitreya’s Seeking 」に同様の指摘がある)。

そして量子エンタングルメントとは、すなわち〝因縁〟のことであろう。

この章の鳩摩羅什の訳「化城喩品」という題名はメタバース的イメージを強調したものだ。一方、元のサンスクリット語からの日本語訳原題は「過去の因縁」。こちらは量子エンタングルメントを意識した題名だといえるだろう。

また、量子もつれとは「過去から今、そして未来へ続いていくカルマの連鎖の謂いだ」という捉え方がある。また、先ほど大通智勝如来が説く「十二因縁」の説法について述べたが、各インシデントが次々に因果連鎖していく説法のモチーフと「量子もつれ=カルマの連鎖」という図式とが、どこか対位法的に響きあっているようにも感じられる。(=筆者の体感。感じ方には個人差があります)

因みに、ヘンドリック・ケルン訳サンスクリット語⇒英語の「THE LOTUS SUTRA」の第7章の題名は「ANCIENT DEVOTION」となっている。訳すと「遠い遠い昔の帰依」という意味になろうか。はるかな過去世でつながった仏法とのご縁、お釈迦様とのご縁が、今この時のサハー世界での生における帰依心として萌芽した。なんという時空を超えた心の旅であろう。そして帰依する心のつながりの深さ……こうしたいかにも地球人好みのドラマツルギーの中で教えの輪は転じられていく。

③へつづく

 

【参考】
大乗仏典〈4〉法華経I(中公文庫) 文庫本–2001年12月20日
松涛誠廉、丹治昭義、長尾雅人
法華経 上 (岩波文庫) Paperback – October 18, 1976
坂本 幸男 (翻訳), 岩本 裕 (翻訳)
THE LOTUS SUTRA」 Paperback – July 30, 2020
English Edition by Buddha Gautama (著), Johan Hendrik Kern (翻訳)

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9次元から見た世界!メタバースとメタバースを繋ぐ量子Entanglement!カルマの法則! 2022/01/26
釈迦が語る宇宙の12次元構造と量子Entanglementメタバース世界!原因と結果、カルマと転生輪廻!ジュキによって産み出される始ま終わり!無限におわることのない創造世界の仕組み! 2022/01/26

ブログなど
Maitreya’s Seeking ミロクの問い―宇宙誕生の謎に迫る 科学としての新仏教
Rico Avalokitesvara
【到達】「ヒッグス粒子の発見」はなぜ大ニュースなのか?素粒子物理学の「標準模型」を易しく説明する:『強い力と弱い力』  (大栗博司)2021-10-18 2022-02-11
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