ウクライナ侵攻が意味するもの
ユーチューブ「むすび大学チャンネル」 に我那覇真子(がなは まさこ)さんが出演してウクライナ情勢についてしゃべっていた内容が興味深かったのでシェアしたいと思う。また、我那覇氏の話を踏まえたうえで、ウクライナ情勢に関する筆者なりの見方についても書いていきたい。
①我那覇氏のお話概要
▽戦争が起きるのには複雑な要因が絡んでいると今まで思っていたが、アメリカに取材旅行し、アメリカの戦争特派員の話を聴いて、戦争は簡単なパターンで起きる、そしてそれはしょっちゅう繰り返されている、ということが分かった。
▽ウクライナのNATO加盟の動きは、バイデン政権になって加速した。もしウクライナがNATOに入ってそこに対ロシアのミサイル基地が設置されたら、どうなるか。いまウクライナで起きていることを見ると、ロシアが出て来ざるを得ない状況を、NATO側が作り出している。
▽アメリカがもしロシアと同じ状況になったら、アメリカも動くだろう。いまロシアの前で起きている状況は、キューバやカナダに共産主義国のミサイルが配備されようとしているようなものだ。
▽日本もかつて、朝鮮が共産化しないように、対共産圏の緩衝地帯を設けるために朝鮮を併合した過去がある。
▽ウクライナの状況が深刻化し、アメリカの兵力がもしウクライナに向かうことになれば、中国が喜ぶ。尖閣防衛、台湾有事の抑止がわが国の国益であることをセットで考えるべきだ。今の日本のメディアのように「ロシアは悪だ!」と単純に言っていていいのだろうか。
▽今のアメリカ保守の人たちは「日米は戦うべきではなかった。日本はパールハーバー奇襲をしたが、アメリカがけしかけたから、日本はあのように出ざるを得なかったんだ」と言ってくれる。
▽誰も争いたくない。でも政治の上の人たちは国民を争わせて利益を得る仕組みで儲けている。戦争が起きるこうした構造を理解しないと、同じことがまた繰り返される。
②ウクライナはプーチンにとってのキューバ危機なのか
キューバの親米バティスタ政権を共産主義革命によって打倒したカストロはソ連との連携を深めた。フルシチョフはキューバに軍需物資を貨物船で送り込み、核ミサイル基地を設置した。キューバ危機だ(1962年)。ケネディはキューバの海上封鎖と貨物船の臨検を実施し、米ソの緊張は一挙に高まる。あわや全面核戦争か、という地獄の崖っぷちまで全世界が追い詰められたが、すんでのところで回避された。
第二次世界大戦後の現代史をロシア側から見ると、たぶんこんな絵だ。大戦終結後に革命ドミノで東欧のソ連周辺国を次々に共産化していったが、米ソ冷戦の軍拡競争の無理がたたり、ゴルバチョフの時代にとうとう共産主義が破綻した。そのダメっぷりがあらわになるにつれ、かつての衛星国たちは次第に西側に流れて行った。プーチンが見ていた現代ロシア史とは、西の脅威から自分らを守る緩衝地帯がどんどん削られていくという、版図後退と崩壊の歴史だった。
そして今やウクライナでかつてのキューバ危機さながらの状況が生まれている。西側陣営から見たらロシアのウクライナ侵攻は共産主義の脅威そのものだが、プーチン的にはアメリカ帝国主義によるロシア侵略抑止の防衛戦争というかっこうになる。NATO側の圧力により、ロシアはウクライナへの軍事行動を取らざるを得ない状況に追い込まれた、という我那覇氏の見方は間違いではない。
③この世界の非対称構造を利用して儲けたがる上のほうの人
この世界(というよりもその中にあるわれわれ地球人の生存圏)は、東から見たときと西から見たときとでまったく非対称の構造を示す。ウクライナ情勢に引っかけて言えば、西からは侵略者に見えても、東から見れば国土防衛の戦士だ。
上のほうにいる権力者がこの非対称の構造を政治的・経済的に利用して、国民は痛い目に遭わせて自分たちだけ大儲けする、このスタイルが長らく定着し、確立している感がある。人類はいつからこんなことをやり続けているのだろう。だがいつまでも続けていていいわけがない。
我那覇氏の主張は、人間世界の非対称性を悪用したこの卑劣なカラクリを見破り、同じ愚行をこれ以上繰り返さないようにしよう、というものだ。これは巷間に流布しがちな、単に反戦・平和を訴えるだけの運動にとどまるものではない。もう一段上の高みから、人間ひとりひとりの魂が、みずからの生き方を自発的に決定するための、人類の尊厳にかかわる自由を説くものではなかろうか。
④台湾進攻を想定した中国のベンチマークテスト
もうひとつ、ウクライナ情勢が悪化して、アメリカの兵力がヨーロッパ正面に展開すれば、アジア方面の米軍事プレゼンスが弱まるので中国が喜ぶとも我那覇氏は指摘している。これこそ日本の国防に直接関わる事態なのであって、「ウクライナ情勢は対岸の火事ではない」というときの意味は、これが最も重大だ。
筆者の想像も交えて書くと、今回中国は、台湾有事を想定して、どれくらい軍事プレッシャーをかけると西側はどれくらいの反応をしてくるか、そういう一種のベンチマークテストのようなことをやっているであろう。ロシアの軍事行動とそれに対するNATO側の対応状況を観察し、台湾進攻時の目安にする。菅義偉が首相の時に訪米してバイデンに変な言質を取られてしまったが、こうした繋がりを考えると、ウクライナ情勢はもはやわが国の有事に直結しているとさえ言い得る。
⑤ウクライナ侵攻はプーチンのパールハーバー
我那覇氏のレポートにあるように、近年の米保守層のパールハーバー奇襲に対する考え方は柔軟さを増しているようだ。日本海軍による真珠湾攻撃には議論の種が尽きないが、ここではそれには触れず、当時の日本が国際プレッシャーによって対英米戦を決意せざるを得ない状況に追い込まれた、という関係性のみに着目したい。我那覇氏自身は動画で「ウクライナ侵攻=パールハーバー奇襲」とまでは言及していないが、対話の流れの中でパールハーバー奇襲にまつわる話を出してきた意味を汲み取ると、この二つは同じだと、そういう風に読み取れる。
思うに、パールハーバーもまた、いつも繰り返されている、権力機構が戦争を始めるためのシンプルな仕組みそのものだった。プーチンがウクライナ侵攻に踏み切った経緯と同じロジックがここに適用されるのは言うまでもない。歴史は繰り返すとよく言われるが、実はそうではなくて、人間が同じことを繰り返しているだけなのだろう。
どうやらわたしたちは、歴史の中にいつも同じものを見たがっているようだ。だが筆者は、我那覇氏が訴えるように、人類の魂の尊厳に基づく自由を支持したい。人間がこの世界に生まれ、生き、命を賭けるに足るものとは、このような魂の窮極の自由なのではないだろうか。
【前編】
ロシア軍がパッとしない理由 ~意図があるのか、もともと弱いのか?~
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