在りし日の記憶のために

選詩集

 

 

 

 

 

在りし日の記憶のために

 

 

蒼穹。
遠くまで引き絞った弓の記憶
秋がまた、ぼくの頭上から舞い落ちてくる。

数えて ぼくを そのひとつに
手のひらに重なり合って
消える 秋の薄らぐ音符のひとつに。

時のように終わる誰かの嘆き
枯れた木立の合い間に ひとつだけ
取り残されたように落ちている。

ぼくは 拾いに行く 誰かの
音のない祈りに耳を傾けながら 待っている誰かの
瞳の裏に視線を置きながら。

秋が墜ちていく 樹のように 鳥のように……
風を揺らしながら
来し方がぼくの〈いつか〉になって
環のように繋がり
閉じて、首を曲げる

そこにいなかったもの そしてあったもの
まなざしを唇のしかたで閉じ
木立の合い間で かすんでいく

 

蒼穹。
遠くまで引き絞られた弓の記憶
秋が、どこにもいない誰かの上に舞い落ちている。

数えて、そのひとつに
ぼくを、その嘆きに。
ぼくを、時を、その木立で
手のひらを重ね合わせて
待っている/在りし日のいま、薄らいでいく
ゆっくりと 落ちてくる
秋の 音符のひとつに。

 

 

 

(2001.11.25~2002.03.13~03.16)

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