選詩集

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開花するふたつの林檎のように

光とゆるしとともに泉の波紋で浄められた螺旋あの日の宙でかがやいていたふたつの林檎わたしたちの向こうからのささやきかそれともささやきか熟した夢のように舞う音壁に刻まれた雨のようにあるいは螺旋をかたどった文字わたしからわたしたちへと渡される瓶の...
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《ソネット集より》背を伸ばせば手が届く高さに君はいて

背を伸ばせば手が届く高さに君はいて下にいるぼくに時々石をほうり投げてくるよけるのがへたで 痛いね石が当たると君はぼくを見てけらけらと笑う背景の空は快晴 芝生はみどり君の髪は風になびいてぼくは照れ笑いこの星ってまったくたいしたもんだこんな穏や...
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(痛ましくも光のように……)

痛ましくも光のように飛びかい 満ちるものは両翼にかたどられ 時として雷鳥と星たちのはざまを駆けぬける沈黙の姿をした声形ある深淵よ ひびきよ 塵よ 根よ 青の梢よおまえは澪をたどり豊穣のひと房を光でなぞりながらこぼれた文字を渦のかたわらに 羽...
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しご(子午)線

宙吊りにされたままの 空の斜めの夏至灰白色の音符の切れ目のない連鎖が黄道に沿って輪舞していく切れ目なく 切れ目なく 切れ目なくかすかなブレスこの間隙を縫って渦状に吹きつけてくる肌、紫、黒、白、の風のことばいやし いやされるわたしたちの根あな...
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熱から 幅 へ

レジスト  熱から幅へ        欠けてゆく   羽根、      /        澪の欠片を握りしめた眼が漣を 草のようにかなでる 澪の洩れた音を 羽根のように欠いていくレジスト 滅 ~ 花色   落ちていく すう         ...
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薔薇 あなた…

薔薇 あなた…ぼくにとって薔薇 あなた苦しいということ 声が裂け目にかわること満天の星の両目が 手のひらにかわるときぼくの彼方にさしだされたそれがあなたの 眠る前の吐息を夜のなかで 色のようにうけとるときクレヴァス、まばたきのうちにそれは無...
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passage

passageたそがれは夜に入れかわる 夜は冬に 冬は風の細かな震えに (入れ…… ……、り……)姿のない庭園がいつしか視界にあり……裏返す営みはいつまでも終わり続け……ぼくたちは黒い服から白い服に着替えている次の扉はなかったいや きみは違...
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在りし日の記憶のために

在りし日の記憶のために蒼穹。遠くまで引き絞った弓の記憶秋がまた、ぼくの頭上から舞い落ちてくる。数えて ぼくを そのひとつに手のひらに重なり合って消える 秋の薄らぐ音符のひとつに。時のように終わる誰かの嘆き枯れた木立の合い間に ひとつだけ取り...
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flora

flora白昼の袖部屋 切られた窓の外白いエアの蒼ざめカンヴァス、細い線を引いて空の模様を描いていく見えないモンシロチョウかたちなく翼をひろげ透いた空からその中に向けて離れていこうとするものを軌跡がつくる糸でつなぎとめようとしているたったい...
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さねさし

(さねさし ……)炎のなかでわたしを求めてくださったあなたさねさし、相武の野にわたしを呼ぶあなたの声が渡るはしるみずに臨みいまその声を聞いていますもゆるほのほ燃ゆる火のほなかに、わたしをさがすあなたの姿が見えるいまその姿を思い出します燃え立...